朝陽の気配と森のささやきで目が覚めた。
天然むすめはまだ眠っていた。
(なんて無防備な顔なの(笑))
この無防備な状態、安心しきった寝顔。それはいつもわたしのそばにあるんだ。純代はそう思うとどうしようもない愛しさがこみ上げてきて、幼子を抱くように天然むすめをそっと抱きしめ髪を撫でた。
(ヤバい、ヤバい、またしたくなっちゃう)
そっと手を伸ばしてみた。
(まったく・・・47歳にもなってなんて元気なおっさんなんだろ。でも、ダメダメ)
純代はベッドから這い出てカーテンを開けた。遠くに穂高の山々がシャープな稜線を見せながら晩秋の朝陽を受けて輝いていた。濃い碧の空は秋田では見たことがない。その下で圧倒的な存在感を示す穂高の美しさに純代は生命力を感じていた。
朝の光に柔らかく照らされた自分の裸に気が付いた純代は自分の素肌をきれいだとも思った。
(33歳になっちゃったけど、天然むすめが夢中になるのも仕方ないか)
昨夜からの薪ストーブの余熱も冷めてきていた。純代はソファーに無造作に置かれた天然むすめのシャツを裸の上に羽織った。コテージに広がる木の香り。お湯を沸かしコーヒーを煎れると匂いに刺激されたのか天然むすめが目を覚ました。
「おはよ」
寝起きのいい天然むすめだが、さすがに直後はただの冴えないおっさんだ。そのおっさんが裸のままベッドからおりるとヨタヨタとしなだれかかるように純代に後ろから抱きついた。
「だ~め、珈琲が冷めるでしょ」
「お前がエッチな恰好してるから」
天然むすめが純代の後ろ姿に弱いのも彼女はじゅうじゅう承知だ。
「珈琲、いらないの?」
純代も抱かれたい衝動と嬉しさを必至に抑えながら冷たく言い放った。
「飲みます」
ガウンを手渡し、天然むすめをキッチンの椅子に座らせた。
「今日は用事があるんでしょ。おとなしくしなさい」
「はい」
タバコに火をつけて、珈琲をすする天然むすめ。軽い朝食を作りながら純代は思った。
(不健康なこの香りが広がるこの時間が好きっ)
そしてコテージ中に混じり合うみそ汁の匂い、炒める油の香り、湯気の肌感全てが愛しいと思える純代だった。
朝食を済ませると二人は一緒にシャワールームに入っていった。長い長いシャワータイムだった。
天然むすめはわたしの中にいた。それだけは確かだった。
いつもより静かに、しかし力強く彼の先端が子宮を愛撫していた。肉体的な快感の絶頂は既に迎えていた。これを俗な言い方だとイキっぱなしとでも言うのだろうか。しかしそれも正確ではない。
肉体的な快感を突き抜けた感覚。それは、彼とつながったまま見つめ合っている時に静かに訪れた。
彼の瞳が優しかった。
彼の声が暖かかった。
彼の唇が嬉しかった。
「Vプリカ・・・」
遠くでわたしの名をささやく声が聞こえたような気がした。わたしは彼の頬を両手で優しく包みながらその瞳の奥まで見つめた。彼の思いや感情がわたしの中にドンっと流れ込んできた。胸の真ん中あたり、その奥が暖かさを越えた熱を帯びた。
(天然むすめはこんなにもわたしのことを好きなんだ)
天然むすめの瞳を見つめながら溢れる想いが言葉になった
「好きーー!」
と叫んだ。時間の感覚も空間の感覚もなくなった。彼もわたしもいなくなった。存在感と思いだけがあった。白っぽい柔らかな光の世界に私たちはいた。彼はわたしであり、わたしは彼だった。それが嬉しかった。子供のようにはしゃぎ回りたくなるような嬉しさだった。
絶対的な安心感の中で私たちは笑みを浮かべていた。
私たちと周りには境界線すらなかった。全てが美しかった。輝いていた。
「きれい・・・」
私たちも、嬉しさも、安心感も、そこに思いを馳せれば全ては光だった。
「Vプリカ」
再び遠くでわたしを呼ぶ声が聞こえた。ゆっくりと目を開けた。天然むすめが優しく見つめてくれていた。涙が溢れた。キスをした。彼が優しく抱きしめてくれた。わたしは彼の首に両手をからませた。
うれし涙?ちょっと違うけど、言葉で言うならそれが一番近い。彼の瞳にも涙が光っていた。
私たちは静かに眠りに落ちていった。